私が日本語を教える坊やの両親はもう何年も前に別れ、坊やは母親と住んでいる。
家庭教師のようにお家にお邪魔するのでなんとなくは気づいていたが、別に特に聞くわけも聞かされるわけもなく最近まできた。
だが先々週に両親が離婚しているのを坊やの祖母から聞かされ、先週は母親も「今は夏休みだから、この子は1週間ずつ父と母を行き来しているの」と授業の初めに告げてきた。
私が教えている間、この母親は自室に行くし祖母は近くのソファで本を読んでいるため、私と坊やに干渉してくることはほとんどない。
そういうわけで私に一言二言話した後に母親は去り、私はいつも最近はどうか聞くように「パパは元気だった?パパの家は楽しかった?」と坊やに聞いた。
坊やは浮かない顔で「パパといるのはあんまり心地よくない」というのでびっくりし、それ以上深入りせずに話を終え授業を始めた。
ところが授業が半分過ぎたころ、ひらがなの練習中に間違いを指摘すると「自分が合ってる、こう書きたい」と珍しく強気に言い張った。
そして少し黙り込んだ後、こらえきれなかった涙を拭きながらどこかへ去ってしまった。
さっきまで汚い言葉を使い祖母と言い争ってた母親は、自室から出てくると「彼は疲れているの」と一言。
しばらくして戻ってきた坊やは「ごめんね。お勉強じゃなくてパパとの悲しいことを思い出しちゃった。ママの悪口は言うし“彼の息子”に夢中だし。パパと過ごすのは好きじゃない」と言う。
私は何と言っていいかわからなかった。
まだ9歳の時に両親にそんな思いをさせられたことはあっただろうか…
一生懸命に泣くのをやめようとしているのに、まだまだ溢れ出てくる涙を必死にぬぐう彼を見てなんとも悲しい気持ちになった。
日本にいたころ離婚は悲しいものと思っていたが、オーストラリアでたくさんの幸せそうなステップファミリーを見てそんな思いは消えた。
親の一方は違えど“兄弟”と呼んでいたし、ステップファミリーと言われれなければわからなかったし、意外と子どもは気にしてないと思ってた。
だがここに来て子どもの笑顔の裏にある苦労を知ったような気がした。
1週間ずつ家を行き来し、大人の言い争いや悪口を聞き、学校帰りはベビーシッターと過ごす…
坊やはモノに囲まれているのに何かが足りない気がした。
両親が別れた理由も普段どう過ごしているのかも知らない。
両親は別れているという事実しか知らないが、坊やのことが寝るまで頭から離れなかった。
私が踏み込む話じゃないのに、なんだか心に引っかかる。
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