笑顔でいないで

私はあるホテルのラウンジで働いている。

フレンドリーにあいさつし会話することを好む方もいれば、私を空気のように無視し必要な質問だけをしてくるひともいる。

先週はお客さんは少なかったものの、多国籍でフレンドリーな人が多く楽しい雰囲気だった。

そこにとても明るいラテン系のご兄弟がいらっしゃった。

聞けばご兄弟はメキシコとフランスのハーフで、兄はメキシコに妹はフランスに住み久しぶりにローマで再会したらしい。

笑顔の絶えないその女性は、フランスとのハーフでフランスに暮らすにもかかわらず、あまりヨーロッパを好まない様子だった。

2人の成人している息子たちはアメリカに住み、今は旦那さんとふたり暮らしのようである。

息子さんたちの写真を見せてくれて、イケメンですね!の私の反応に、「うーんイケメンかはわからないけど息子たちよ」と控えめなところがとても印象に残っている。

さて、彼らの最終日の閉店間際、最後のドリンクをサーブしたときに、彼女はチップと共にこんな言葉をくれた。

「あなたはいつも笑顔で素敵。でも微笑み過ぎないで。ヨーロッパでは誰もあなたの笑顔を受けるに値しない。むしろ利用されてしまうから」

私は小さい頃から人の顔色をうかがって生きてきたからか、ブスは愛嬌と聞いていたからか、とりあえずいつも笑顔な人である。

その3日間も笑みを絶やさず接客していたが、最終日になってその女性は私に忠告してくれた。

確かに彼女の言うことは真っ当である。

イタリアでいつでもニコニコしていると、最初のうちはいい人だと思われるが、そのうちなんでも言うことを聞いてくれる人、なんでも言っていい人と思われ、いずれ利用されてしまう。

だがまったくの他人からこんなことを言われたのは初めてであった。

日本だったらいつも笑顔でいいわね、で終わりそうないいことを、気をつけなさいと忠告されるのは新鮮で、改めて今更だけど私はヨーロッパに住んでいるのだ、と実感した。

彼女も笑顔が素敵な方だったので、それが裏目に出て苦労してきたのだろう。

息子さんからも「ママ、そんなに笑顔でいちゃだめだよ」と言われるの、とも言っていた。

こんなことを言わなければいけないヨーロッパ。

なんとも悲しい世界である。

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